WEB町長室

感銘を受けたお話

2006年8月3日

ある本に載っていたお話です。

特急バスが発車して間もなく、前方座席でなにやらトラブルが起こりました。「なんとか峠の手前のホロ町で降ろしてもらえんかのう」とガイド嬢に声をかけているのは一人のおじいちゃん。ガイド嬢は困った表情でこう話しています。「お客様、特急バスは決められた所にしか、お停めできないことになっているんです。それ以外のところでお停めして、もし降りられたお客様に万一のことがありますと大変なことになります。ですから規則でお停めすることはできないことになっております。申し訳ございません」


おじいちゃんは座席につかまりながら立ち上がり、さらに頼み込みました。「このバスが特急バスと知らんで乗ってしもうたんじゃ。ホロ町にみんなが集まっとっての。時間までにワシが行かんとみんなが困るんじゃよ。なんとか停めてもらえませんかの。」ガイド嬢はすまなさそうに言いました。「おじいちゃん、ごめんなさい。安全な場所にお停めして降りていただくことはできるのですが、そうするとほかのお客様から『じゃあ、あそこに停めて』とか、『私はここで降ろして』というご依頼があったときにお断りすることができなくなってしまうんです。本当にすみません」


おじいちゃんは途方に暮れて、独り言のようにつぶやきました。
「峠を超えた所で降りたんじゃワシのこの足では歩けんし、ホロ町の手前で降ろされたんじゃ時間に間に合わんし・・・困ったのう・・・。」
車内の鉄棒につかまったまま、おじいちゃんは少し震えているようでした。
周りの乗客を見渡すと、みんな心配そうにおじいちゃんを見つめています。
(なんとかできないものかなぁ。かといって窓から放り出すわけにもいかないし・・・。それにしてもガイドさんもガイドさんだ。おじいちゃんがあんなに困っているのに、運転手さんと話し込んだりして・・・。あっ、あそこに見えてきたのが峠かな。するとこの辺りがホロ町か。)


そう思ったときでした。
それまで運転手さんと話し込んでいたガイド嬢が一つうなずいたかと思うと、客席に向かって姿勢を正し、こう話し始めたのです。
「お客様に申し上げます。当バスはこれより峠にさしかかりますので、念のためブレーキテストを行います。ブレーキテスト、スタート!」特急バスは徐々に速度を落とし、静かに停車しました。ガイド嬢は、さらに言葉を続けます。「ドアの開閉チェック!」乗降ドアがスーッと手前に開きました。
するとガイド嬢はおじいちゃんに向かって目で合図をし、右手を小さく前に差し出したのでした。
おじいちゃんはハッと気がついて、急いで荷物を持ち、乗降口に進みました。そしてステップの前でクルリと振り向くと、運転手さんとガイド嬢に手を合わせ、何度も何度も頭を下げました。おじいちゃんが降りると、ゆっくりとバスのドアは閉まり、ガイド嬢の明るい声が車内に響きました。
「ドアの開閉チェック完了。ブレーキテスト完了。発車オーライ」
エンジン音とともにバスが再び走りました。と、期せずして車内には大きな拍手がわき起こりました。ホッとした表情でうれしそうに拍手を送っている人、なかには涙ぐんでうなずいている人もいます。走り出したバスに向かって、両手を合わせ頭を下げているおじいちゃん。その姿は次第に遠ざかり、やがて視界から消えていきました。

やってやりたいのですが、規則によりできません。
他の町民に断った経緯がありますから、例外をつくることはできません等々、私にも同じような経験があります。