気づいて欲しい「くれない族」
2013年1月11日
夏目漱石の逸話です。漱石の書は何とも言えない気品があって、誰もが欲しがった。
漱石門下の某氏もその一人で、かねがね何度か所望したが、一向に書いて
くれない。
ある時、夏目邸の書斎でついに口を切った。
「前から何度もお願いしているのに、どうして僕には書いてくださらないんですか。雑誌社の滝田さんにはあんなにお書きになっているのだから、僕にも一枚や二枚は頂戴できそうなもんですな」
漱石は静かに言ったという。
「滝田君は、書いてくれと言うとすぐに毛氈(書道用の下敷き)を引いて、一生懸命に墨をすり出す。
紙もちゃんと用意している。
都合が悪くて今は書けないというと、不満らしい顔を見せずに帰って行く。
そして次にやってくると、『都合が良ければお願いします』とまた墨をすり出すんだ。
これじゃ、いかに不精なわしでも書かずにいられないではないか。
ところが、君はどうだ。
ただの一度も墨をすったことがあるかね。
色紙一枚持ってきたことがないじゃないか。
懐手をしてただ書けと言う。
それじゃわしが書く気にならんのも無理はなかろう」
漱石は、誠意を示すということを諭しているわけであります。
昨今「~してくれない」と主張する「くれない族」が増えているように思われますが、どのように対処すればいいのか思い悩むところであります。